1.労働者災害補償保険の請求について
業務上災害によって傷病等が発生した場合は、労働者災害補償保険から補償が受けられます。労働者災害補償保険は、公務員や経営者、一部の個人経営の農業・林業・水産業を除いて、労働者を1人でも使用していれば、国の法律で強制適用事業となります。
任意の保険制度ではないので、使用者が不法に保険に未加入で保険料を納めていなくても、被災者は補償を受けることができます。その場合は国が使用者に費用徴収をして強制的に加入手続きをする事になります。
また、いわゆる外注や請負と言われている方も、請負契約や請求書などの形式に係らず実態で判断される為、使用従属関係(専属性・労働時間の拘束性等)があれば労働者になり補償が受けられます。
ところが過重労働などの労働災害は、発症と業務との相当因果関係が一見曖昧な為に、使用者は私傷病で処理をしてくる場合が非常に多く見られます。
その原因は、労災が認定されると使用者の責任が明確になり、次に民事損害賠償請求を提起される可能性があるので、わざわざ労災の請求を使用者側の意思で進めるようなケースは一部の誠意のある事業者を除いて少ないものと考えられます。
このことは、被災者が労働者災害補償保険で、生涯に渡って最低限の生活補償を受けられるにも係らず、補償を受けずに泣き寝入りをしている事になります。
さらに、退職の強要や解雇で失業するなど、生活に著しい不利益が生じる場合もあります。
しかし、労働者災害補償保険は、被災者や遺族が請求するものであって、使用者は協力義務があるにすぎません。
つまり、使用者の意向に関係なく被災者や遺族の判断で請求をする事ができます。
@ 過重労働の労災認定基準
対象疾患
脳血管疾患(脳内出血・くも膜下出血・高血圧脳症・脳梗塞)
心疾患(心筋梗塞・狭心症・心停止・解離性大動脈瘤)
精神疾患(気分[感情]障害・神経症性障害・ストレス関連障害及び身体表現性障害等)
過重性の判断基準
月の総労働時間250時間を超える場合は業務との因果関係が高いと判断される。
(労働時間の立証については、管理職などタイムカード等で時間管理がされていな
い場合であっても、被災者の疎明資料や監督署の調査で実態の確認が出来れば
評価されます。)
A 主な給付の内容
療養補償給付・療養給付の時効は2年
休業補償給付・休業給付の時効は、休業する日ごとにその翌日から2年以内
葬祭料・葬祭給付の時効は、労働者死亡日の翌日から2年以内
介護補償給付・介護給付は、介護を受けた月の翌日の1日から2年以内
障害補償給付・障害給付は、傷病が治癒した日の翌日から5年以内
遺族補償給付・遺族給付は、労働者死亡日の翌日から5年以内
など。
労災が認定されると被災者や遺族は将来に渡って最低限の生活補償を受けることが出来ます。
B 労災が認められなかった場合
次に労災が認められなかった場合ですが、この場合には、労災保険は法定前置主義をとっていますので、労働保険審査会官にたいして審査請求をかけることになります。
審査請求で認められない場合には、さらに労働保険審査会に対して再審査請求をかけます。
労働保険審査会は労働者災害補償保険法の枠の中に縛られずに、広く他の法律も考慮して判断していきますので、ここで認められるケースも多数あります。
しかし、最終的に再審査請求でも認められない場合には、行政不服訴訟を提起しなければなりません。
行政不服訴訟か民事損害賠償訴訟のどちらを先に提起するかですが、事業者に支払い能力のない場合には、行政不服訴訟を先行して、ある程度事業者に支払い能力がある場合には、民事損害賠償を先行するのが良いと考えます。
むしろ過重労働のケースでは、行政不服訴訟より民事損害賠償訴訟の方が認められやすい場合があります。
2、民事損害賠償の請求
民事損害賠償の請求の根拠は、使用者の債務不履行責任(安全配慮義務違反など)と不法行為に基づくことになります。
過重労働による労働災害の場合は、使用者の安全配慮義務違反や不法行為が必ず内在しています。
労働者災害補償保険は損害の全額を補償するものではないので、逸失利益や慰謝料について不足する部分については、使用者に民事上の請求をすることになります。
損害賠償請求額の算定例を参考までに上げておきます
@ 民事損害賠償の進め方(事案によって異なります。)
労災保険と民事損害賠償では要件が異なりますので、まったく別のものであると考えることができます。
労災保険の場合には「業務起因性・業務遂行性」、民事の場合には「相当因果関係・予見可能性・結果回避義務」・「債務不履行」から判断していきます。
但し、判断していく上で重複している部分もありますので、結果的に労災保険が認められれば民事も進めやすくなります。
よって、一般的には、事業者との交渉如何にかかわらず、労災保険の申請を先行させるケースが多いです。
また、事業者の支払い能力や対応などによっても影響してきます。
上場企業などの、社会的な信用や責任が大きい会社で、補償に対して協力的な場合は、和解で進めていくこともできると思います。
逸失利益や慰謝料については、基準化された算定方法がありますので、個別の事情を修正して交渉していきます。
しかし、この場合でも労災が認定される前に、示談が成立するケースは少ないと思います。その理由は、労災が認定されることによって、労働喪失率などの消極的損害が明確になること、労災の保険利益や支払猶予を考慮に入れて交渉を進めたほうが、使用者にとって支払い金額において有利な場合があることなどからです。
やはり本格的な示談交渉の開始は労災認定後ということになります。
次に使用者がまったく責任を認めない場合には、労働者災害補償保険の請求を先行して、認定後に責任を明確にした上で、民事損害賠償請求を進めていくことになります。
この時点で大抵の使用者は、協議に応じてくる可能性が高いです。しかし、その場合でも話が平行線である場合や、過失割合について争点がある場合等には、訴訟しかないことになります。
中小企業などであれば支払い能力がない場合があるので、事前に会社や社長の資産を調査しておくべきではないかと考えます。まずは商業登記簿を取って、会社や社長の個人資産の不動産を調査すると良いと思います。
また、悪質な事業者のケースでは証拠隠滅や資産隠しをする場合がありますので、懸念される場合には、事前に弁護士に相談して、証拠保全等の手続きをするか、労働基準監督署に相談をしておくと良いでしょう。
また、当初から労災の認定が難しいような事案では、労災の請求をせずに、民事損害賠償の請求を進める方が良い結果が得られる場合も考えられます。そのうえで民事確定後に労災の請求をする方法もあります。
A 請求方法
一般的に過重労働に基づく労働災害の逸失利益や慰謝料は、請求金額が高額になりますが、訴訟をしなくても、被災者の直接交渉による示談や、労働局の紛争調整委員会などで調停をする事によって、解決を図ることができる場合もあります。
※ 以上、民事損害賠償の請求と言う観点から、内容を記載いたましたが、被災者や遺族への謝罪と言う点では、別の考え方になると思います。
謝罪に応じない場合は、労基署への告訴も視野に入れて、検討を進めていくことになります。
3、監督機関に対しての申告・告訴
長時間労働やサービス残業等の労働基準法違反は、労働基準監督官に違法行為を申告や告発をする事が出来ます。
労働基準監督官は、主に都道府県労働局・労働基準監督署に配置され、労働基準関係法令違反事件に対して特別司法警察職員として犯罪捜査を行うことが出来る強い権限が与えられています。
違法な長時間労働がある会社は、サービス残業等の違法行為が並存している場合が非常に多く見られます。
長時間労働等(過重労働)において民事損害賠償を請求する場合、労基署への申告や告訴は話し合いをする上で交渉材料になる場合もあります。
するかしないかは、状況を見極めて、被災者又は遺族が判断します。
|